民法1 自然人の能力(1)(お試し版)
目次 Contents

権利能力

意義

 権利能力とは、私法上の権利義務の主体となることができる地位または資格のことをいいます。
 具体的には、売買契約をしたり、財産を所有したりすることができる地位または資格のことです。


権利能力の始期・終期

 自然人の権利能力は出生の時に始まり(民法第3条第1項)、死亡の時に消滅します。つまり、自然人は、出生から死亡まで権利能力を有していることになります。

自然人の権利能力

時 期

始 期

出生の時(民法第3条)

終 期

死亡の時

補足
 外国人も、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、権利能力を有します(民法第3条第2項)。
条文 民法 第3条
  1. 私権の享有は、出生に始まる。
  2. 外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。


胎児の権利能力

認められる場合

 胎児は、出生していないので、原則として権利能力は認められません。ただし、以下の3つの場合には、例外として権利能力が認められます。

  1. 不法行為に基づく損害賠償請求(民法第721条)
  2. 相続(民法第886条第1項)
  3. 遺贈(民法第965条)

 なぜ、この3つの場合に例外として胎児に権利能力が認められるのかを事例を使って説明をしていきます。


事例検討

【事例】
  1. AとBは婚姻をしていて、Cを出産した。その1日後にAは会社からの帰宅途中に車にはねられて死亡した。
  2. AとBは婚姻をしていて、妻Bは間もなく出産予定である。しかし、Aは会社からの帰宅途中で、車にはねられて死亡し、その1日後にCが生まれた。

【検討】

 事例1.の場合は、Cは出生しているので、権利能力を有します。したがって、CはAの遺産を相続することができますし(民法第887条1項)、慰謝料の損害賠償の請求もできます(民法第711条)。

 一方、事例2.の場合は、原則から考えると、Cは出生していないので、権利能力はなく、Aの遺産を相続したり、慰謝料の損害賠償を請求することはできないことになります。

 しかし、生まれるのが数日違うだけで得ることができる権利が異なるのでは、あまりに不公平です。

 そこで、民法は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第721条)、相続(民法第886条第1項)、遺贈(民法第965条)の場合には、胎児は「既に生まれたものとみなす」として権利能力を認めたのです。


停止条件説と解除条件説

 胎児に権利能力が認められる場合が3つありましたが、いつから認められるのかについて停止条件説と解除条件説という考え方があります。

意  義

代理行為

停止条件説
(大判昭7.10.6)

胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、さかのぼって権利能力を取得する

父母(法定代理人)は、出生前に胎児を代理できない

解除条件説

胎児である間でも権利能力があるが、死産の場合は、さかのぼって権利能力が消滅する

父母(法定代理人)は、出生前に胎児を代理できる


停止条件説

 判例は、胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、さかのぼって権利能力を取得するとの考えに立っています(停止条件説)。

 


判例 大判昭7.10.6
 胎児の損害賠償請求権について母又はその他の親族が胎児のために加害者とした和解契約は、胎児を拘束しない。


解除条件説

 胎児である間でも権利能力があり、死産であった場合、さかのぼって権利能力を消滅するとの考え方もあります(解除条件説)。

 



事例検討

【事例】
 胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、さかのぼって権利能力を取得するという説からは、父や母は、出生前に胎児を代理することができるか?

【検討】
 胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、不法行為時や相続開始時にさかのぼって権利能力を取得するという説は、停止条件説です。停止条件説では、胎児である間は権利能力がなく、父や母は胎児を代理することはできません
 一方、胎児である間でも権利能力はあるが、死産であった場合、さかのぼって権利能力が消滅するという解除条件説からは、胎児である間も権利能力があるため、父や母は胎児を代理することができることになります。
条文 民法 第721条
 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
条文 民法 第886条第1項
 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
条文 民法 第965条
 第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。



意思能力

意義

 意思能力とは、自己の法律行為の結果を判断することのできる精神能力のことをいいます。10歳未満の子供、精神障害者や泥酔者には意思能力がないとされています。意思能力のない者のことを意思無能力者といいます。一方、意思能力のある者のことを意思能力者といいます。


効果

 意思無能力者が行った法律行為は無効となります(民法第3条の2)。
 例えば、6歳の子供が自分が持っているゲームを友達に「あげる」と言い、その友達が「ありがとう」と言ったとします。「あげる」(契約の申込み)と「ありがとう」(承諾)があるので、贈与契約が成立しますが、意思無能力者が行った意思表示なので、無効となります。つまり、初めから契約は成立していないということになります。

条文 民法 第3条の2
 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。



行為能力

意義

 行為能力とは、単独で、完全に法律行為を行うことのできる能力のことをいいます。民法では、行為能力が制限される者(制限行為能力者)を規定しており、これらに該当しなければ、行為能力が認められる者(行為能力者)になります(民法第20条第1項)。

 民法では、以下の者を制限行為能力者としています。

  1. 未成年者
  2. 成年被後見人
  3. 被保佐人
  4. (一定の行為について補助人の同意を要する)被補助人


効果

 制限行為能力者が行った法律行為は、取り消すことができます。無効ではないので注意しましょう。
 例えば、高校生のA(16歳)が、原付免許を取得したので、親に内緒でバイクの販売店に行ってバイクを購入する契約を締結したとします。Aは16歳なので未成年者です。つまり、Aは制限行為能力者です。したがって、Aがバイクの販売店と行ったバイクの売買契約は取り消すことができます。

効 果

意思無能力者

無効

制限行為能力者

取り消すことができる

補足 無効と取消し
 無効とは、何らの意思表示を要することなく、最初から法律行為の効果が発生しないことです。一方、取消しとは、取消しの意思表示によって最初から法律行為の効果が発生しないことです。
 詳しくは、民法第16回「無効及び取消し」で学びます。
補足 身分行為
 行為能力の制度は、売買契約等の財産的な行為に関して適用されるもので、婚姻、養子縁組などの身分的な行為については適用されません



未成年者

意義

 未成年者とは、18歳未満の者のことをいいます(民法第4条)。

 未成年者の親権者(父母)(民法第818条)や未成年後見人のことを法定代理人といいます。法定代理人とは、法の規定で代理人とされる者のことです。


条文 民法 第4条
 年齢18歳をもって、成年とする。


法定代理人の同意権・取消権

 未成年者は、まだ法律的な判断能力が十分ではないので、制限行為能力者とされています。そのため、未成年者が売買契約等の法律行為をするには、その法定代理人の同意が必要とされています(民法第5条第1項)。そして、未成年者が法定代理人の同意を得ないでした法律行為は、取り消すことができます(民法第5条第2項)。
 例えば、未成年者Aが親Bの同意を得ずに、相手方Xとバイクの売買契約を締結した場合、この売買契約は取り消すことができます。




補足
  • 養子である未成年者の法律行為に必要なのは養親の同意です。
  • 未成年者がする取引についての法定代理人の同意は、未成年者自身に対してではなく、未成年者と取引をする相手方に対してなされても有効です。また、同意の方式も特に定められておらず、黙示でもよいとされています。
  • 法定代理人の同意を欠く行為の取消しは、意思能力のある未成年者法定代理人ともにすることができます(民法第120条第1項)。
  • 未成年後見人は、未成年者に親権者がいない場合等に開始され(民法第838条第1号)、法人もなることができ(民法第840条第3項)、複数の未成年後見人の選任も可能です(民法第840条第2項)。
条文 民法 第5条
  1. 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
  2. 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
  3. 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。


法定代理人の同意を要しない行為

 例外として、以下の場合は、未成年者を害するおそれがないため、法定代理人の同意を得ずに単独で有効に法律行為を行うことができるとされています。

  • 単に権利を得、義務を免れる法律行為(民法第5条第1項ただし書)
  • 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で処分する行為(民法第5条第3項)
  • 法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為(民法第5条第3項)
  • 法定代理人から許された未成年者の営業に関する行為(民法第6条第1項)


単に権利を得、義務を免れる法律行為(民法第5条第1項ただし書)

 単に権利を得、又は義務を免れる法律行為は、未成年者が不利益を受けるおそれがないため、法定代理人の同意は不要とされています(民法第5条第1項ただし書)。以下、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為に該当するものとしないものの代表的なものをまとめておきます。

具体例

該当する

  • 負担のない贈与を受ける
  • 債務の免除を受ける

該当しない

  • 負担付きの贈与・遺贈を受ける
  • 負担付きの遺贈の放棄
  • 相続の単純承認・限定承認・放棄
  • 債務の弁済を受ける

 この中で特に注意が必要なのは、「債務の弁済を受ける」ことです。

 例えば、未成年者Aが相手方Xに対して、100万円の債権をもっており、XがAに100万円を弁済するとします。この場合、Aとしてはお金を返してもらうだけなので、「単に権利を得」るにすぎないとも考えられます。しかし、Aは弁済を受けることで、Xに対してもっている債権が消滅しますので、法定代理人の同意が必要だとされています。



法定代理人が処分を許した財産を処分する行為(民法第5条第3項)

 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で処分する行為、又は、法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為(民法第5条第3項)については、法定代理人が処分を許しているということで、法定代理人の同意があったのと同じですから、未成年者は単独で有効に法律行為を行うことができます。したがって、これらの行為は、未成年を理由に取り消すことはできません。

具体例

目的を定めて処分を許した財産

学費や旅費など

目的を定めないで処分を許した財産

お小遣い

条文 民法 第5条
  1. 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
  2. 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
  3. 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。


法定代理人から許された未成年者の営業に関する行為(民法第6条第1項)

 法定代理人から一種又は数種の営業を許可された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の効力を有するとされています(民法第6条第1項)。法定代理人は、営業の種類を特定して許可しなければならず、種類を特定しない包括的な許可は認められません。また、1個の営業の一部についてだけの許可もできません。なお、法定代理人の許可は、特別の方式によることを要せず、口頭でも黙示の許可でもよいとされています。

補足
 未成年者の営業とは、未成年者が事業を始めることです。例えば、書店や文房具店の営業を始めるといったようなことです。そして、文房具店のうち、消しゴムの販売だけを取り扱うといったような1個の営業のうち一部だけについて許可ができるとなると、取引の相手方を害してしまうので、認められません。
条文 民法 第6条
  1. 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
  2. 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第4編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。


法定代理人の代理権

 未成年者の法定代理人は、未成年者を代理して法律行為を行うことができます。つまり、未成年者の法定代理人には代理権があるということです(民法第824条)。条文の文言上は「代表する」となっていますが、代理と同じ意味です。
 例えば、未成年者Aの親Bが、Aにバイクを買ってあげようと思って相手方Xとバイクの売買契約をした場合、売買契約を直接締結するのは、BとXですが、売買契約の効果はAに帰属します。つまり、バイクはAのものとなります。


条文 民法 第824条
 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。


未成年者の法律行為の方法

 未成年者に法律行為の効果を帰属させる方法としては、以下の2つの方法があることになります。

  1. 未成年者が法定代理人の同意を得て行う方法
  2. 法定代理人が未成年者を代理して行う方法



確認テスト

AとBは婚姻をしていて、妻Bは間もなく出産予定である。Aは会社からの帰宅途中、車にはねられて死亡した。この場合において、胎児の損害賠償請求権についてBが胎児のために加害者とした和解契約は、胎児に効果が及ぶ。
誤り)胎児である間には権利能力はなく、生きて生まれた場合、さかのぼって権利能力を取得する(停止条件説:判例)。したがって、法定代理人は胎児を代理することはできず、胎児の損害賠償請求権についてBが胎児のために加害者とした和解契約は、胎児を拘束しない。
未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において、その贈与契約が負担付のものでないときは、その未成年者は、その贈与契約を取り消すことができる。
誤り)負担のない贈与を受ける行為は、単に権利を得る行為である(民法第5条第1項ただし書)。したがって、未成年者は単独で有効に法律行為を行うことができ、取り消すことはできない。
未成年者が法定代理人の同意を得ないで債務の弁済を受けた場合、その未成年者は、その行為を取り消すことができる。
正しい)債務の弁済を受ける行為は、単に権利を得る行為に該当しない(民法第5条第1項ただし書)。したがって、取り消すことができる。